
卒業は、いまから18年前。グラフィックデザインコース(現在のビジュアルコミュニケーションデザイン学科の前身となるコース)を出たのですが、当時はデザイナーではなく絵描きをめざしていました。だから就職もせず、版画家のアシスタントをしながらアルバイトで店舗の内装や家具づくりなどもしていましたね。そうしたなか、OSCDで新たに開講されたイラストレーションコースの講師になったのが、25歳の時です。実はこれがぼく自身、最初で最後のきちんとした就職だったのですが(笑)、同時に人生の大きな転機になりました。講師として若い人たちが創る作品を見ていると、「こいつはすごい」と思わせてくれる人がいっぱいいる。
また講師という仕事をすることで新たに気付いたのが、ぼくは人の世話をするのが大好きな人間だということ。そうしたことがきっかけとなり、30歳になったのを機に、少しでも多くの優秀な人たちが作品を発表できるギャラリーを作ろうと決意。講師の仕事は非常勤にしてもらい、卒業生たちと一緒にまず、グラフィックデザイン事務所を立ち上げました。それが現在の“SKKY(スカイ)”です。それから2年半後に、当初からの念願だったギャラリーとブックカフェを併設した“iTohen(イトヘン)”をオープンして、現在に至っています。
“iTohen”というギャラリーでめざしているのは、従来、一般的にとても敷居が高いと感じられているギャラリーを、誰でも気軽にリラックスした気分で楽しめる空間にしたいということかな。現代は“こころの豊かさを求める時代”だとよく言われますが、まだまだ日本人には、アートをゆったりとした気分で楽しむという習慣ができていないと感じます。海外の美術館に行くと、絵の向かいにあるベンチに座って、途中で食事もしながら、何時間もかけて一つの絵を見ることを心から楽しんでいる人たちがいっぱいいる。“iTohen”ではそんな風に、ここに展示される若い人たちの作品を少しでも多くの人に楽しんでもらいたいと思っています。だからカフェを併設してさまざまなアートブックも揃えて、できるだけ気持ちよく長く居てもらえる空間づくりをめざしています。
また一方のグラフィックデザイン事務所である“SKKY(スカイ)”では、iTohenで展示をしたアーティストたちの作品集の制作とともにカフェやレストラン、バーなどの飲食店舗のロゴマークやさまざまなツールづくりをメインに活動をしています。グラフィックデザインというのも、ギャラリーと同様、ぼく自身の個性を前面に出すのではなく、あくまでも黒子的な仕事だと思っています。デザインにあたっては、お店のオーナーの想いや生き方などについてじっくりとお話をうかがい、服や音楽の趣味まで観察して、その魅力をカタチにしていくプロセスが本当に面白いですね。



ぼくの仕事の原点には、やはりOSCDで過ごした時間があると感じています。卒業制作のテーマはエコロジーでしたが、自然との共生や心の時代、アートと生活が融合した居心地の良い空間や日常など、現在のぼくにとって、本当に欠かせないキーワードになっている。また、講師となり、さまざまな学生と出会ったこともぼく自身の人生や仕事を大きく変えていってくれた。そうした思想や価値観、そして人と出会えたことに、ぼくは心から感謝しています。
だからこれからOSCDで学ぶみなさんにも、デジタルな情報ばかりを求めるのではなく、この学校を起点に、自分の足で歩き、見て、多くの人と出会いを重ねて、この世界の生の情報をしっかりと得てほしいと思います。クリエーターとして、ゼロからモノをつくることはとても大変なことですが、苦労して作品を生みだせたときの喜びや高揚感、充足感は本当に素晴らしいものがあります。ましてそれがお金になるなんて、本当に楽しい仕事ですよね。ぼく自身、いつまでも「仕事は楽しいものだ」とはっきり言える大人でありたいと思っていますし、若い人たちにも「こんな大人もありなんだ」と思ってもらいたい。クリエーターとして生き、働くことは、すなわち、夢を追い、仕事を楽しむこととイコールなんだと、みんなに実感してもらいたいですね。